プロジェクト紹介
神戸大学 先端融合研究環 開拓プロジェクト(2019~2021年度) 「海洋再生可能エネルギーによる発電・水素製造システムの研究開発」
①研究プロジェクト概要
本プロジェクトでは、海洋再生可能エネルギーによるグリーン水素の製造及び水素による電力貯蔵システム導入による海洋再生可能エネルギーの利用拡大を最終目標に掲げ、洋上風力エネルギーを主とした海洋再生可能エネルギーによる発電から、変動する電力の安定化、海水の水電解による水素製造、水素の液化と貯蔵に至るまでのエネルギー変換過程を洋上で実現するための基礎研究を実施した。
上記最終目標に至るまでの研究開発項目を
1)海洋再生可能エネルギー
2)浮体システム
3)独立電源システム
4)水素製造システム
5)水素貯蔵・輸送技術
の5つに分け、それぞれの過程で必要となる要素技術を洗い出し、それらの技術開発を進めることを本プロジェクトの目的とする。

②研究成果の概要
本プロジェクトの研究成果を5つの研究開発項目毎に以下に記す。
1)海洋再生可能エネルギーの研究開発
NEDO「洋上風況調査手法の確立」事業(2019-2022年度,研究開発責任者:大澤輝夫)に参画し、むつ小川原港(青森県)において3機種のフローティングライダーの年間実証実験を実施し、それらの風況観測精度及び観測特性を明らかにした。
これらの研究成果は事業最終年度となる2022年度中に、洋上風力開発促進に向けた国の技術ガイドラインとして発行される予定である。
また、北日本太平洋沿岸海域において非係留型洋上風力発電の利用に向けた風況・発電量解析を行い、年間の設備利用率として60%前後の値が期待出来ることを明らかにした。
2)浮体システムの研究開発
大型試験水槽での模型実験により、考案したセミサブ浮体に作用する流体力の基本特性を明らかにするとともに、粒子法による数値計算により実験結果を正確に推定可能であることを確認した。
また、洋上で太陽光発電を展開することを目的として、本学を含めた2大学と民間2社から成るコンソーシアムによる浮体基地の研究計画に参画し、設置予定の海域における気象海象の調査、安全性および発電コストの両面から見た浮体構造を検証した。
3)独立電源システムの研究開発
洋上独立電源に発展しうる電力変換回路・システムとして、①高周波絶縁方式三相AC-DC コンバータ、②燃料電池発電用高周波絶縁型昇圧直流コンバータ、③共振形双方向直流コンバータ、④大容量電磁誘導方式非接触給電システム、⑤超音波方式非接触給電システムをそれぞれ開発した。特に①については、直流平滑キャパシタを使用しない周波数変換回路を新たに考案し、有効な回路技術を確立した。
4)水素製造システムの研究開発
海水電気分解反応を理解する上で電極表面構造解析は非常に重要であるため、表面構造が原子レベルで規定された単結晶電極を用いて、海水電気分解反応特性評価を行った。
それにより水素発生反応および塩素発生反応の反応活性(反応の起こりやすさ)に電極表面構造依存性があることが明らかになった。
また、電極、浮体システムへの耐久性・耐食性の付与には高性能なガスバリア膜の開発が重要となるため、グラフェンを分散したガスバリア膜、ポリシルセスキオキサンを用いたガスバリア膜、層状複水酸化物を用いたガスバリア膜などを開発した。
5)水素貯蔵・輸送技術の研究開発
科研費・若手研究「急減圧時における舶用液体水素タンク内部の沸騰現象の解明」(研究代表者:前川一真、2020~2023年度)に基づき、液体水素を輸送・貯蔵するための基盤技術の確立を目的として、舶用液体水素タンク急減圧時におけるタンク内部の沸騰現象(気液相転移現象)に関する研究を行った。
液体水素タンク蓄圧状態からの急減圧実験を様々な条件下で行うとともに、数値解析ソフトSTAR-CCM+を用いて、液体水素海上輸送時における熱流体解析を行った。
また、自由表面の大変形と伴う数値解析とボイルオフ可視化計測実験により、液体水素運搬船のタンク内スロッシングによる流体混合率,壁面熱伝達率を求め、ボイルオフ促進量の推算モデルを機構した。